更生と受容をもたらす寛容な組織 ~マニュフェスト大賞に向けて~

ガベルサポーターズ代表
梅本 和正

マニュフェスト大賞に応募するにあたり、私は「優れた取り組みが広く知られ競うようにまちづくりをすすめる」善政競争や、生活者起点の政策の推進にどのように貢献できるか、という視点から自分たちの活動を分析してみました。

そして「他の模範となる特別な活動」よりも「誰でもが真似できる自然な活動」の方が、競争や推進には役立つのではと考え、簡単に模倣しやすいように段階を追って考えました。

次の4段階です。

  1. 作ろうと思えば誰でも作れる。ゆるーい組織。
  2. 寛容性のある組織が受刑者の立ち直りを支える。
  3. 歴史の積み重ねを今に活かす。既成の団体の良いところを活かそう。
  4. そして多方面に活躍の場を広げていこう。日本中に、そして世界へ。

 

 

1. 作ろうと思えば誰でも作れる。ゆるーい組織。

別に「こんな組織を作ろう」と思って作ったわけではありません。

でも「刑務所でボランティアをしよう」などという物好きな・・・もとい、個性的な方々が集まって、いろいろな意見を交わすなかで、「こんな組織になっちゃった。」という感じです。

 

NPOガベルサポーターズには義務も権利もありません。

会員には主婦や学生、年金障害者もいますが、ほとんどが職業をもつ社会人です。

会費は年に3,000円です。

「会費を集めないと幽霊会員が増えて管理運営が大変になる」という理由で会費を集めることにしました。

会費を納めないと年1回の総会での議決権はありませんが、それだけです。

別に総会に参加しても構わないし、会費を払わないと刑務所でボランティアができない、というわけでもありません。

会計担当が会費支払いのお願いをして、払ってくれない人にはとても柔らかな表現の督促のメールを送って、それで会費を払ってくれた人にはお礼のメールを送ってくれています。

それでも、払ってくれている人は半分くらいでしょうか?・・・まあ、いいか?

 

経費もあまりかかりません。

NPO法人になって、「さいたま市の監査があるから何も経費を使っていないのはまずいんじゃない?」ということで経費を使うことにしました。

刑務所の最寄り駅からのタクシー代は実費、自家用車で送迎した場合には一律で千円支給することに決めました。

でもほとんど、請求してくれないので、ボランティア記録を元に、こちらから支給することにしました。

それでも、「私は要りません。」という人もいます。

名古屋とか遠くに説明会で出かけたときの交通費も支給することにしました。

それでも請求を忘れている役員がいます。

まあ、これで収支バランスがとれて赤字にならないからいいかな?

※サイト担当よりひとこと:

広報活動のための印刷物の作成や、Webサーバーの年額費用などがありますので、くれぐれもその分があることをお忘れなく~

権利と義務の社会ですから、

「交通費を受け取らないのは、善意押し付けになるのではないか?
(善意が強制される風土が醸成され、会員が経費を受け取る権利が侵害されるのでは?)」

と心配する会員もいますが、まあ、個性的な会員ぞろいなので、私は心配していません。

なんとかなるでしょう。

 

それよりも、この寛容さ(実際は「いい加減さ」?)が『ガベルサポーターズ』の強みだと思っています。

失敗を怖れずにどんどん新しいことにチャレンジできる。

社会の既成概念にとらわれず、誰もやったことのない先例を作り続ける。

この原動力になっているのが、権利や義務に縛られない自由さなのでしょう。

「義務だからやらなければならない」という非自主性(やらされ感)や「権利だから、できるだけ多くもらおう」という自利や我利はありません。

「やりたいからやっている。」「いつでもやめられる。」という気持ちが「自分から進んでやっているのだから責任を持ってやろう。」「自分のことは忘れて、受刑者の更生だけを願おう。」「受刑者とは一期一会だ。最高のパフォーマンスで支援しよう。」という熱意につながっているのです。

人間は自主的に熱意を持って他人の幸せのために利他の精神で活動したときには、義務で嫌々と自利のために活動したときに比べ、百倍も千倍も勇気や力が湧いてきます。

まるで、やなせたかしの『アンパンマン』のようですね。

2. 寛容性の高い組織が受刑者の立ち直りを支える。

この寛容性の高い組織が更生支援に役立つのには訳があります。

一般社会は義務や権利と規律で成り立っています。

それを支えているのは平等感です。

「ずるい」「不平等だ」と思われたり責められたりするので義務や権利を守るのでしょう。

 

しかし、残念ながら実際の世の中は平等にはできていません。

例えば、受刑者には子供の頃に虐待や貧困などを経験した人が多くいます。

彼らは「不平等だ」という恨みを持っています。

そして罪を犯すときに気持ちのブレーキがかからなくなります。

「相手は何ひとつ不自由しない幸せな生活を送っている。」

「自分は弱いから虐待された。裕福な年寄りから金を巻き上げよう。」

とても手前勝手な合理化です。

でも、彼らのブレーキを外すのには十分な理屈となりえるのでしょう。

 

そう考えると犯罪を防ぐには犯罪合理化のもとである『不平等=悪いこと』という構図を部分的に崩す必要があります。

たとえば、義務を果たしていないのに権利だけを享受していても良い社会でも良い、病気や障害、高齢になっても人間らしい生活を送れる余裕のある社会でも良い、そうした自己責任や能力主義の対極にある社会、これが閉塞感を打破するために求められているかもしれません。

イメージ的には『ゆるきゃら』は何の役にも立ちませんが、いるだけで心が緩みます。

アンパンマンも失敗ばかりして、みんなが助けてくれます。

ばいきんまんは悪役ですが仲直りして、物語から完全に排除されることはありません。

私達の団体はそんな存在になっているのかもしれません。

 

現代社会では言葉は『情報を伝達する道具』として使われます。

しかし、私達は受刑者の話を聞きながら表情や声のトーン、思わず空いてしまう間、姿勢や動きを通じて、彼らの心を感じながら言葉を聞いています。

そして受刑者も同じなのです。彼らは私達をよく見ています。

 

私達はボランティアの寄せ集めなので、当日、現地に行って初めて顔を合わせる人もいます。

当然、リハーサルは十分にできていません。マニュアルを作り、説明会や講習会を行い、なるべく、呼吸を合わせて頑張ってはいますが、それでも失敗します。

また、『アドリブは大歓迎』はルール(?)になっています。

その場の雰囲気に合わせて、色々と新しい試みをします。

成功することもありますが、当然、失敗することもあります。

 

そのときに、受刑者が、なんとかフォローしてくれようと頑張ってくれます。

初めて来た会員が緊張していると、冗談を言って笑わせようとしてくれる人もいます。

自分から手をあげて発言してくれる人もいます。

そのとき私は、涙が出そうになります。

「なんて優しい人たちなんだ。」

 

たった1時間のボランティアなのに、

「大きな失敗をして迷惑をかけた私達の社会復帰のために、こんなに頑張ってくれている人がいる。」

「悪い人間だという先入観なしに、同じ一人の人間、共に支え合う仲間として認めてくれている。」

こんなメッセージが伝わっているのかもしれません。

 

失敗ばかりの組織だから、寄せ集めで統制もとれていない組織だから、失敗を温かい目でみつめ、許し、励まし、更生の手助けができるのでしょう。

いまは能率第一、利益第一の社会だからこそ、私達のような多様で寛容な組織が役に立つ場面もあるのかもしれません。

 

ご参考までに、メンバーの多様性は職業を見ていただければ、烏合の衆の寄せ集め団体なのがよく判ると思います。

参考:<NPO『ガベルサポーターズ」社員の職業>

言語聴覚士、弁護士、無職障害者、司法書士、会社員、団体職員、保育士、主婦、セミナー講師、公務員、公認会計士、会社役員、会社社長、市会議員、県会議員、ルポライター、行政書士、Webデザイナー、バトミントンコーチ、コーチングコーチ、シンガーソングライター、自営業、ジャズシンガー、エステティシャン、バレエ教師、テニスコーチ、司会業、大学院生、中学教諭、高校教諭、大学講師、大学院講師、大学教授、経営コンサルタント、茶道師範、デザイナー、病院職員、医師、看護師、助産師、カウンセラー、通訳案内士、社団法人理事長、NPO理事長

 

3. 歴史の積み重ねを今に生かす。

既成の団体の良いところを活かそう。

「お互いにスピーチをして、お互いに論評(助言・フィードバック)する。」この画期的な方法は、『トーストマスターズ・インターナショナル』という団体が1924年の設立以来、100年近くにわたって改善、改良しながら綿綿と続けてきた方法です。

いまも世界最大の教育NPOとして拡大を続けているのは、会員がプログラムの効果を実感しているからでしょう。プログラムの特徴は「先生も生徒もいない」「お互いに助け合い励ましあって進歩する」です。

 

私達『NPOガベルサポーターズ』はもともと、『浦和トーストマスターズクラブ』の会員がクラブ内の『ガベルクラブ支援委員会』として7年前に始めた活動が母体です。

米国では戦前から刑務所でも『トーストマスターズ』が行われて素晴らしい成果を上げてきている。

しかし知る人は少ない。

残念なことに、『トーストマスターズ・インターナショナル』は、「多くの有名企業が企業内研修に採用している」というブランドイメージを大切にするがために、企業からは疎んじられることもある刑務所内クラブには光を当ててこなかった。

 

私はトーストマスターズの全国大会で支援委員会の設立を提案したが、執行部の反対に会い逆に「悪い人を支援する悪い人たち」というイメージがついてしまった。

でも、それを支えてくれたのが、『浦和トーストマスターズクラブ(旧『武蔵トーストマスターズクラブ』であった。

「日本語を母国語としない外国人のための日本語スピーチクラブ」として始まった『武蔵トーストマスターズクラブ』は場所を変えて『浦和トーストマスターズクラブ』と名前を変えても、失敗を許せるクラブ、温かい雰囲気で支え合うクラブ、といった伝統は残った。

 

そして『浦和トーストマスターズクラブ』に若手で有能なビジネスマン・ビジネスウーマンが入ってきて、クラブを「なりたい自分になれるクラブ」「どんな夢でも叶える力をつけるクラブ」へと変えていった。

その夢を叶える雰囲気の中で、梅本和正(言語聴覚士)が熱くスピーチすることで、川目武彦さん(弁護士)の出会いがあり、

「梅本さん、法務省が『再犯防止に向けた総合対策』を出しました。見てください。コミュニケーション能力の向上、ボランティアNPO等民間の参画と書いてある。」

「私、元法務大臣を知っているので頼みに行きましょう。」

そして、日本初の『刑務所でのスピーチによる受刑者更生支援ボランティア』の実現につながった。

https://urawa-tmc.localinfo.jp/

http://www.moj.go.jp/hisho/seisakuhyouka/hisho04_00020.html

http://www.moj.go.jp/content/000100471.pdf

 

4. そして多方面に活躍の場を広げていこう。

日本中に、そして世界へ。

刑務所ボランティアの活動が広がりを見せるためには、プログラムの大本である『トーストマスターズ・インターナショナル』の協力が必要である。

アメリカでは、元受刑者が出所後も地元のトーストマスターズクラブでスピーチ訓練を続けていた。

日本では来年4月に国連犯罪防止会議が京都で開かれる。当団体は『刑務所トーストマスターズ世界大会』をサイドイベントの一つとして提案した。

トーストマスターズのプログラムを使った刑務所ボランティアが一同に会して意見交換をする予定にしている。

国際本部に協力を訴える共同宣言まで行けたらいいなあ。

 

新しい広がりもある。

実は、昨年と今年、私達ボランティアのメンバーの中に、元受刑者も参加してきた。

一人は私が誘い、もう一人は、その人の友人から伝え聞いて参加している。

これは公表していないが、本人は自己開示しているのでメンバーの多くは知っている。

そして、彼は刑務所の活動中にも自己開示をしている。

すると、受刑者の目が輝き、身を前に乗り出すのが判る。

目の前に生きた見本がいるからだ。

刑務所を出ても社会が受け入れ、立派にやっていけるという見本が。

 

私が視察やボランティアをしたアメリカ、シンガポールなどを含め、海外でも元受刑者は、ボランティアとして刑務所に入ることができない。

日本でも刑務所に不文律がある。

しかし、それは不文律でしかない。

刑期を終えて罪を完全に償った人は一般市民と同じ権利があるはずだ。

更生者と再犯常習者を比較した犯罪学の研究(シャッド・マルナ『犯罪からの離脱と人生のやり直し』)では、犯罪者の更生に最も役立つのは「社会貢献のボランティア、特に更生の経験を生かした『先輩』としての更生支援である。」ことが証明されている。

ただ、世界ではこれまで誰も挑戦しなかった。不文律の壁のために。

 

6月に刑務所ボランティアをしていたら、元受刑者である仲間の自己開示を聞いていた刑務官から声がかかった。

そして、9月からは彼の講座を別枠で設けてくれることになった。

すごい!これは、世界に類を見ない画期的なことだ。

「犯罪者は刑務所ではボランティアできない。」という世界の既成概念を破るからだ。

 

実は、私は犯罪心理学を研究して私達の活動の啓蒙や社会貢献に役立てるために、4月から筑波大学大学院博士課程に社会人入学した。

家族会議では子どもたちに「お父さんに授業料を払うのはもったいない(笑)」と言われた。

仕事も家庭もあるのに、なんで「たかがボランティア」にこんなに熱心なのだろうか?

 

アメリカで8つの刑務所を回ってボランティアしたとき、ある受刑者にこう言われた。

「私は、刑務官の言うことは聞かない。

彼らは仕事でやっているからだ。

でも、ボランティアの言うことは絶対に聞く。

君たちを尊敬している。

前を横切って歩くことすらしない。

ボランティアは、雨の日も、雪の日も、交通費も自分で出して、無償で刑務所にやって来てくれる。

私は、君たちのお陰で更生することができた。

君たちがいなければ、刑務所を出てもまた犯罪を繰り返していただろう。

日本から来てくれて本当にありがとう。

トーストマスターズは素晴らしい。

ぜひ日本でも始めてほしい。

心から成功を祈っている。」

https://d31toastmastersprisonvolunteers.wordpress.com/volunteers/

https://d31toastmastersprisonvolunteers.wordpress.com/tag/prison-toastmasters/

 

彼らの思いも乗せて、そして多くの志を共にする友人の支えとともに・・・

「失敗をやり直す」夢を叶えるガベルサポーターズ。

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上記活動に限らず「こんなことをしてみたい!」というアイデアも大歓迎です。
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