メンバーより寄稿~川越少年刑務所の理容室~

ガベルサポーターズメンバー
宮本 竜介

服役中に手に職をつけて社会復帰を促す職業訓練のひとつとして、川越少年刑務所には理容科が設置されている。一般客を受け入れる理容室を設置しているのは、川越の他に、函館少年刑務所。以前は奈良少年刑務所にもあったが、2016年に廃止された。

美容科があり、一般客を受け入れる美容室を設置しているのは、栃木刑務所、笠松刑務所、和歌山刑務所(いずれも女子刑務所)である。

理容室の受付時間は、平日の午前8:00~9:30、午後1:00~2:30。営業しない日もあるので、事前に電話等で確認してから行きたい。(049-242-0226)

初回は利用者登録(身分証の提示)が必要で、会員カードを発行してくれる。次回からはカードを窓口に持参すればよい。

受付は、庁舎入口を入ってすぐ右の職業訓練部門。カードを提示し、支払いを済ませると、レシートと利用者バッヂをくれるのでそれを面会受付へ持って行くと、刑務官が対応してくれる。

料金は

  • A コース(カット、シェービング)889 円
  • B コース(カット)590 円
  • C コース(染毛)1410円

10月から増税に伴って若干値上げしたようだが、それでも市価と比べだいぶ安い。

面会受付に理容室から刑務官が迎えに来てくれる。並んで元気よく「いらっしゃいませ!こちらへどうぞ」と接客してくれるのは受刑者たち。青い白衣を着ているのが2年間の修業を終え理容師免許の試験に合格した人、白い白衣はまだ免許がない修行中の人。

カット台が並ぶ室内の後方には、ウィッグを付けたマネキンが数台おいてあり、客が来ない時はこれを使って練習する。室内は明るく清潔で、有線放送であろうか、インストゥルメンタルの音楽がかかっている。ここが刑務所の中であるとは全く想像もできない。

案内されるまま席について、ジャケットを預け、エプロンを着用し、希望の髪型を伝える。担当してくれたのは、日焼けした肌と、きりっとした眉が印象的な、好感の持てる若者。暴力事件を起こして服役したという。刑務官が真横につくわけではなく、受刑者と普通に会話することができる。これも接客の練習のひとつとして認められているのであろう。

「釈放前教育のボランティアで、たまに刑務所に出入りしてるんです。床屋があるのを見て、いつも気になっていたんですが、生憎時間が合わなくて。でも、どうしても気になって、今日は仲間と昼食を食べてから、わざわざ戻ってきちゃいました。」

「そうだったんですか。いつも私達のためにありがとうございます。お客様に足を運んでいただけるだけで本当に嬉しいです。」

ひとつひとつの所作や言葉遣いが、とても丁寧で礼儀正しい。目の前のお客様のために、今の自分にできる最善を尽くして仕事をしよう、という純粋な意気込みが伝わってくる。もっとも、利用客は平均で1 日5~6 人、多い日でも12 人程度と、あまり多くはない。近隣住民と一部の職員がリピーターになっているそうだ。一般のお客様の髪を切らせてもらえる実践的な機会があること自体とても貴重らしい。

洗髪、カット、顔剃り(眉整形、襟剃り含む)、シャンプー、マッサージ、セット。ひとつひとつこちらの満足度を確かめながら、時間をかけて丁寧にやってくれる。こんなにも真心をこめた仕事をして客の心を癒せる人が、なぜ塀の中に来てしまったのだろう。生きるということの難しさについて考え、自分が幸運にも今まで塀の中へ送られるようなことをせずに生き抜いてこられたことに感謝の念が自然と芽生える。自分や他人を傷つけるために生まれてくる人間なんていない。たとえ人を傷つける罪を犯してしまった人でも、教育によるフォローと、彼が一人の尊厳ある人間として認められ活躍できる場があれば、自分のための学びも他者への奉仕もできる本来の姿へ生まれ変われるはずだ。

「物心ついた頃から、兄が非行に走っていて、そういった行動への違和感が薄かったと思います。自分も中学生くらいからグレ始めて、悪い仲間の中にどんどん染まっていきました。今思えば、高校に入学した時をはじめ、何度か立ち直れるきっかけはありました。でも、当時の自分は一切周りの大人に対して聞く耳を持たなかったので、抜け出せなくなっていき、気づいた時には刑務所の中にいました。そんな失礼を繰り返してきたにもかかわらず、母だけは見捨てないでそばにいてくれました。自分がここに来てからも、面会に来たり、差し入れをしてくれます。今は母に本当に感謝しています。」

こちらが受刑者の支援をしているボランティアと知ったからだろうか。彼は髪を切りながら自分の過去を振り返って話してくれた。後ろでは白い白衣の受刑者が忙しく動き、先輩がカットする姿を観察したり、エプロンやシャンプー、ワックスなどを運んでいた。

「お願いします。」

「ここのカットがちょっと甘いな。この部分がモッサリしちゃってるから、やり直しな。」

カットが終わる直前、白衣に紺色のラインが入った理容師が呼ばれ、仕上がりのチェックにやってくる。

「彼は技官か講師の先生ですか?」

「いいえ、彼は受刑者の先輩です。免許を取ってから経験が長くなると、後輩の指導ができるようになるんです。」

刑務官から命令されなくても、受刑者どうしが役割分担をして自然と協力したり学び合ったりする空気が、ここではできているようだ。

ボランティアについてもう少し話しても問題ないだろうと思い、ガベルサポーターズが行っている釈放前教育について、少し紹介した。技術を習得して社会復帰することを強く意識している彼の反応はとても前向きだった。

「へえ、就活の面接の練習をやるんですか。自分も経験したことはありますが、とても苦手なので、出所する前にそういう機会があったら助かります。今まで、ずっと対人関係で苦労してきました。人とうまくコミュニケーションを取ることができていたら、たぶん刑務所に入るような事は起こさなかった。自分のことを振り返っても、一緒に生活している人達を見ても、そう思います。本当に人付き合いって難しいですね。」

「みんな一緒ですよ。刑務所に入ったことはありませんが、職場の人間関係がうまく行かなくなって、それが原因で、ストレスで体を壊しました。今も回復途上、毎日が新しい学びの連続です。僕が病気になったのも、あなたがここに入ったのも、お互いの人生で一番落ちた時期でしょう。でも自分の問題に気づいて、心を整えて、自分で変えようという意思さえあれば、生まれ変わることができます。僕自身がそういう時期に来ていると感じているから、今日ここであなたと会ってこの話ができてよかったです。」

心を整えてイライラに対処する方法を少しだけアドバイスした。

「つい講師の悪い癖が出てしまいましたね。説教するつもりは全くなくて、今の僕が自分に課していることをそのまま言っただけなんですよ。」

「いえいえ。とてもありがたいです。お話を伺っていて、自分にも思い当たることばかりですから。」

刑務所の中で、一般人と普通の会話をする数少ない機会から、彼は素直に感性を開放して何かを学び取ろうとしているようであった。

最後に、ワックスできれいに髪をセットしながら、彼は言った。

「釈放班は、全員その講座を受けられるんですよね?自分も、もう少しでそちらに行けると思います。またお客様にお会いできるのを楽しみにしています。それまで頑張ります。」

「交代でやっているので僕がいる保証はないですが、熱い思いを共有した本当にいい仲間たちが来ますから、楽しみにしていてください。出所したら、自分の床屋さんを持ちたいですか?」

「はい。技官の先生の他に、床屋を開業している方が外部講師としてたまに来て指導してくださいます。実は彼も、ここで服役中に理容師免許を取った方で、今は地域で自分のお店を持って商売をしています。自分もその先生のようになりたいと思っています。」

「そうですか。体に気をつけて頑張ってください。あなたに切ってもらえてよかった。ありがとうございました。縁があったらまた会いましょう。」

たっぷり1時間かけて散髪とマッサージを受け、髪も、体も、心もすっきりした。こんなに丁寧に労ってもらって、心の底からリラックスしたのは、いつ以来だろう。そんな気がした。

帰り際、最初と同じように、在室していた受刑者全員で元気よく送り出してくれる。出口で、監視の刑務官が、預けたジャケットを持ってきて、なんと笑顔で僕に着せてくれたのだ。刑務官と受刑者という厳然たる違いはあるが、この刑務官も、受刑者たちと一緒になって理容室の一員として接客しようとしてくれている。とても嬉しい気遣いだったし、きっと慕われているいい先生なんだろうな、と思った。

面会所の刑務官に、バッヂを返しながら、「午前中釈放班の講座で来ましたガベルサポーターズの者です。どうしてもここで散髪したかったので、昼食の後に戻ってきました。おかげさまで大満足です。」と話した。刑務官は「いつもお世話になります。よろしければまた利用してやってくださいね。ありがとうございました!」とニコニコして送り出してくれた。

一般人も、受刑者も刑務官も、関係ない。それぞれ立場の違いこそあれ、みんな血の通った生身の人間である。お互いに気持ちよくコミュニケーションが取れれば、イライラしたり、対立したりする事なんてないのだ。レッテルを貼って排除することなく、心を開いて応援し、よりよいコミュニケーションの方法をともに学ぶ。そんなガベルサポーターズの活動の意義を再確認し、ますますメンバーとしての誇りを感じた日だった。

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